それは世間の人の心まかせで、二人の心は二人だけが知っていればいいと思っていたらしい。
お時もやがて帰って来た。かねて彼女をおびやかしていた悪夢がいよいよ現実となったのを知った時に、お時は正体もなく泣きくずれた。死んだ二人の唇に微かな笑みを含んでいるのを見いだしたときに、彼女はいよいよ堪まらなくなって声をあげて泣き叫んだ。
外記の死骸は藤枝家に引き取られたが、綾衣の死骸は浄閑寺に埋められた。新造の綾浪も綾鶴も一応の吟味を受けたが、綾衣の駈落ちや心中に就いて自分たちはいっさい知らないと申し立てた。禿《かむろ》の満野も調べられたが、七つの彼女は勿論なんにも知ろう筈はなかった。調べられた時に、彼女はなんにも答えずに、姉さまが恋しいと泣き出して、居あわした人びとの眼をうるませた。
江戸時代にも五百石の旗本と廓の遊女との相対死には珍らしかった。五百石は五千石と誇張されて、その噂はいよいよ高くなった。無名の詩人が二人の恋を唄い出して、その声は江戸の町々に広く伝えられた。
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※[#歌記号、1−3−28]君と寝やろか、五千石取ろか。なんの五千石、君と寝よ。
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