怪我もありんせんでしたね」
「むやみに切られて堪まるものか。これでも命が惜しい」と、外記はほほえんだ。「いくら叔父でも無法の成敗をしようとすれば、おれもこれを持っている」
外記は蚊帳の外へ手をのばして枕もとの刀を引き寄せた。遊女屋に大小は禁物で、腰の物はいつも茶屋に預けて来るので、綾衣は一度も外記の刀を見たことはなかった。ここへ来てからも別に気にも止めなかったが、今夜はふと思い出した。
「もし、いつか仲の町の草市で摺れちがった時の刀というのは、やっぱりこれでありんしたかえ」
「むむ、そうだ。お前の袖に引っかかった刀はこれだ。鍛えは国俊《くにとし》、家重代。先祖はこれで武名をあげたと、年寄りどもからたびたび聞かされたものだ」
「その刀は二人のためには結ぶの神とでも言うのでおざんしょう。わたしにもよく見せておくんなんし」
綾衣は袖の上に刀をのせて、鞘のままでじっと見入っているうちに、不思議な縁ということも考えられた。その晩、草市を見物に出た遊女も大勢《おおぜい》あった。大門《おおもん》をくぐった侍も大勢あった。その大勢と大勢とのなかで、外記と自分とが偶然に行きちがって、偶然に自分の袖が
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