ないので断わったが、あの時に請け出されていたら今頃はどうなっているだろうなどとも考えた。お米と十吉とがやっぱり羨ましくも思われた。
 表はすっかり暮れてしまって、暗い空にはかぞえるほどの少ない星が弱々しく光っていた。露のおもい夜の空気は冷やびやと人の肌に触れた。村の家々では迎い火を焚きはじめた。竹籬《たけがき》のあいだや軒下に寂しい火の光りがちらちら[#「ちらちら」に傍点]ひらめいて、黒い人影や白い浴衣が薄暗いなかに動いていた。お時も焙烙《ほうろく》に苧殻《おがら》を入れて庭の入り口に持ち出した。やがて火打ちの音がやむと、お時の手を合わせている姿が火の前にぼんやりと浮き出した。
 白い帷子《かたびら》を着ている外記が、いつの間にか苧殻の白い煙りの中に立っていた。お時はようよう気がついた。
「ああ、殿様」と、彼女は表を窺いながら小声で言った。「ほかに誰もおりませぬ。さあ、お通り遊ばしませ」
 外記は編笠《あみがさ》をぬいで縁にあがった。お時は迎い火を消して、同じく内にはいった。
 外記がはいって来た気配を知ると、綾衣は眼が醒めたように俄かに晴れやかな気分になって、今まで何を考えていたかも
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