があれば、なんどきでも売り放すぞ」
鎧は面当てらしく家来の眼の前にがらりと投げ出された。
三左衛門はあわててその鎧を引き寄せて押し戴くようにして自分の膝の上に抱きあげたが、勿体ないと情けないとが一つにもつれて、卯花縅《うのはなおどし》の袖の糸に彼の涙の痕がにじんだ。
お縫がはいって来て、市ヶ谷の叔父さまがお出《い》でになりましたと言った。外記は又かと顔をしかめたが、今さら留守ともいえない。病気ともいえない。まさか逃げることもできないと思っているうちに、背の高い叔父の姿がもう眼の前に現われた。
吉田五郎三郎は四十前後で、あさ黒い頬のあたりはやや寂しいが、鼻の高い、口もとのきっと引き締まった、さすがに争われない肉縁の証拠を外記とよく似た男らしい顔にもっていた。質素な家風と見え、鼠の狭布《さよみ》の薄羽織に短い袴を穿いて、長い刀を手に持っていた。
「朝夕は余ほど凌《しの》ぎよくなったが、日のなかはまだ残暑が強い。一同変ることもないか」
五郎三郎は機嫌よくみんなに挨拶して、腰から白扇《はくせん》を取り出してはらはら[#「はらはら」に傍点]と使った。庭には薄い日がどんよりとさしていた。
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