申す通り、お前さまのお持ち物でもお前さまの御自由には相成りませぬと言い切った。その鎧は御先祖さまが慶長元和|度々《どど》の戦場に敵の血をそそいだ名誉のお形見で、お家《いえ》に取っては何物にも替え難い宝でござる。藤枝五百石のお家は、その鎧と太刀さきの賜物《たまもの》であるということをお忘れなされたかと、彼は叱るように言った。
 もうこうなったら主人でも容赦はない。手討ちになろうと勘当されようと、言うだけのことは言わなければならないと彼はあわれにも覚悟の胸を決めていた。
 外記は白い歯を見せて笑い出した。
「慶長元和の血なまぐさい世の中と、太平百余年の今日《こんにち》とは、世のありさまも違えば人の心入れも違うぞ。鎧刀を武士の魂などと自慢する時代はもう過ぎた。おれも以前は武芸に凝り固まって、やれ剣術の柔術のと脂汗を流して苦しんだものだが、今さら思えば馬鹿であった。歴々の武士が竹刀《しない》の持ちようも知らず、弓の引きようも知らず、それでも立派にお役を勤めて家繁昌する世の中に、なんの役にも立たない鎧や刀は、五月の節句の飾り具足や菖蒲刀《しょうぶがたな》も同様だ。家重代の宝でもいい値に引き取る者
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