ましくてならない。
 こう言ううちにも綾衣はやるせないように胸を抱えて、しばたたく睫毛《まつげ》には白い露が忍んでいた。深いわけは知らないながらも、お米もなんだか引き入れられるように心さびしくなって、さっきの恨みとはまた違った悲しみに、あたらしい涙がおのずと湧き出るのを押さえることができなかった。
「実はそういう訳なんだから、このお人のことを決して誰にも言うんじゃないぜ」と、十吉は固く念を押した。お米は決して他言はしないといった。両親にさえも言わないと誓った。
 世間をおそれる身が長く端居《はしい》はできないので、二人の仲直りを見とどけて綾衣は早々に奥へはいった。昼でも暗い納戸には湿《しめ》って黴《かび》臭い空気がみなぎっていた。人を慕ってすぐに襲って来る藪蚊の唸り声におびやかされて、綾衣はあわてて渋団扇《しぶうちわ》を手にとった。
 間違って人に妬まれた我が身が、今はかえって人を妬ましいように思わなければならなかった。綾衣は実にお米と十吉とを妬ましいほどに羨ましく思った。彼女は時どきに団扇の手を休めて、二人のささやきに耳を引き立てた。
 怨む、怒る、泣く、笑う、それが覗きからくりのよ
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