はならないと言った。
 お米も漸《ようや》く疑いがほぐれて来た。今までは垣覗きの遠目でよく判らなかったが、こうして顔と顔とを突き合わせて親しくその人をみあげると、その鈴を張ったような大きい眼、しっかりと結んでいる口もとに、犯し難い一種の威をもっているようにも思われて、お米はなんだかまぶしく感じられた。しかもその眼には偽らない誠の光りがひそんで、その口には優しいなさけがこもっていることも、彼女の心を惹き付けた。この人が自分を欺《だま》そうとはお米もさすがに思われなかった。彼女はおとなしく聴いていた。
 綾衣は又こんなことを言った。
 お前が十さんと約束のあることは、わたしもここの阿母《おっか》さんから聴いて知っている。こうして列べて見たところが丁度似合いの夫婦である。お前さん達は羨ましい。たとい一生を藁ぶき屋根の下に送っても、思い合った同士が仲よく添い遂げれば、世に生きている甲斐がある。いくら花魁の、太夫のと、うわべばかりに綺羅《きら》を飾っても、わたし達の身の果てはどう成り行くやら。仕合せに生まれた人たちと不仕合せに生まれた者とは、こうも人間の運が違うものか。返すがえすもお前さん達が羨
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