て、もうひと足のところを汀《みぎわ》から危うく曳き戻した。お米は狂人のように身をもがいたが、男の力にはかなわないで再び縁さきまで泣きながらよろけて帰った。
 奥にひそんでいる問題の人はこの争いをさっきから窺っていて、出ようか出まいかと躊躇していたが、もう堪まらなくなって襖《ふすま》をあけた。彼女はしずかに縁さきに出て、そこに泣き倒れているお米の肩をやさしくなでた。
「もし、お米さんとかいう子、お前も短気はやめなんし。わたしはこう見えてもほかに立派な男がおざんす。ここの家《うち》のお嫁かなんぞのように疑われては、十さんも迷惑、わたしも馬鹿らしゅうおす。もういい加減に泣くのを止めて、十さんと仲好くおしなんし」
 まだ腑に落ちないような恨み顔をしているお米にむかって、綾衣はしみじみと言って聞かせた。相手の名はあらわには明かされないが、自分は廓にいる時から或る武家と言い交して、それがために駈落ちの日かげ者となってこの家に隠まわれている。十さんがそれを秘《かく》しているのは、つまりわたし達のためを思うからのことで、お前の疑うのは無理もないが、疑われた十さんは実に気の毒である。決して思い違いをして
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