ていなかった彼は、お米の疑いを解くに適当な手段を考え出すことができなかった。
「わたしが何でほかの女なぞを連れて来るものか、積もって見ても知れたことだ。まあ、黙って見ているがいい。あとで自然に判るから」
 十吉はこんなことを小声で繰り返していた。一方にはお米をなだめながら、また一方にはこんなことを奥の人の耳に入れるのも恥かしいように思ったので、お米の泣き声が高くなるほど、彼は奥を憚《はばか》ってはらはら[#「はらはら」に傍点]していた。
 あの女はどこの誰だとお米は執念ぶかく問い詰めたが、十吉ははっきり答えることができないで、相変らずおどおどしているので、一途《いちず》に突き詰めた若い女の胸はもう張り切って破れそうになった。
「覚えているがいい」
 持っていた手拭を男に叩き付けてお米は衝《つ》と起った。顔いっぱいの涙を丸めた袂で強く拭いたかと思うと、彼女は忽ち跣足《はだし》になって、横手の蓮池を目ざしてつかつか[#「つかつか」に傍点]と駈け出した。池はこの頃の雨に水嵩《みずかさ》をおびただしく増して、蓮の浮き葉は濁った泥の浪に沈んでいた。
 十吉はおどろいた。これも跣足になって駈け出し
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