降る。まるで嵐のようだ」
なるほど、雨は土砂降りであった。風も少しまじって来たと見えて、庭の若葉が掻き廻されるようにざわめいていた。蛙《かわず》もさすがに鳴く音を止めてしまった。
跫音《あしおと》は雨のひびきに消されて聞えなかったが、人が門口《かどぐち》に近寄ったらしい。雨戸を叩く音が低くきこえた。母子は眼を見合せた。
「この降るのに誰だろう」
十吉は起って縁さきに出た。戸を叩く音は又きこえた。
「あい、あい。今あける」
きしむ雨戸をこじあけて覗くと、闇のなかには竹の子笠をかぶって蓑《みの》を着た人が突っ立っていた。人はしずくの滴《た》れる笠をぬぐと、行燈を持って出たお時がまず驚かされた。それは今も胸に描いていた番町の殿様であった。
十吉もやっと気がついてびっくりした。なにしろこちらへと慌てて招じ入れると、外記は更にうしろを見返って無言で招いた。
今まで見いださなかったが、暗い雨の中にはまだ一人の蓑と笠とが忍んでいた。ぬれた蓑の袖からは溶けるような紅の色がこぼれ出していた。
「お前さまもどうぞこちらへ」と、誰だか知らないがお時は取りあえず会釈した。十吉は急いで盥《たらい》の
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