んにも言うまいと心に誓っていた。綾衣が何を訊いても、彼はいつも晴れやかな笑いにまぎらして取り合わなかった。
 その心づかいは神経のするどい綾衣によく判っていた。殊に外記が今夜の笑い顔には、拭き消すことのできない陰った汚点が濃くにじんでいるのを認めていた。
「なんだか今夜は顔の色が悪うおす。また風邪でも引きなんしたかえ」
 綾衣は枕もとの煙草盆を引き寄せて、朱羅宇《しゅらお》の長煙管《ながきせる》に一服吸い付けて男に渡した。
 外記は天鵝絨《びろうど》に緋縮緬のふちを付けた三つ蒲団の上に坐っていた。うしろに刎《は》ねのけられた緞子《どんす》の衾《よぎ》は同じく緋縮緬の裏を見せて、燃えるような真っ紅な口を大きくあいていた。綾衣は床の中へは入らずに、酔いざめのやや蒼ざめた横顔をうす暗い行燈に照らさせながら、枕もとにきちんと坐っていた。
「いや、おれは別にどうでもない。お前こそこの頃は顔の色がよくないようだが、また血の道でも起ったのか」
「いいえ」
 外記のくゆらす煙りは立て廻した金屏風に淡い雲を描いて、さらに枕もとの床の間の方へ軽くなびいて行った。綾衣は雛を祭らなかったが、床の間には源平の桃
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