枝から枝に動いた。
雛の節句の前夜に外記は来た。大抵のよい客はあしたの紋日《もんび》を約束して今夜は来ない。引け過ぎの廓はひっそりと沈んで、絹糸のような春雨は音もせずに軒を流れていた。
「お宿《やど》の首尾はどうでありんすえ」
綾衣に訊かれても男はただ笑っていた。
内そとの首尾の悪いのは今さら言うまでもない。部屋住みの身分でもなし、隠居の親たちがあるのではなし、自分はれっき[#「れっき」に傍点]とした一家の主人でありながらも、物堅い武家屋敷にはそれぞれに窮屈な掟がある。いくら家来でも譜代の用人どもには相当遠慮もしなければならない。外には市ヶ谷の叔父を始めとして大勢のうるさい親類縁者が取り巻いている。これらがきのう今日は一つになって、内と外から外記の不行跡《ふぎょうせき》を責め立てている。味方は一人もない。四方八方はみな敵であった。
しかしそれを恐れるような弱い外記ではなかった。何百人の囲みを衝いても、自分は自分のゆくべき道をまっすぐに行こうとしていた。自分はそう覚悟していればそれでよい。詰まらない愚痴めいたことを言って、可愛い女によけいな苦労をさせるには及ばないと、彼は努めてな
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