の花が生けてあった。外記は夜目に黒ずんだその花を見るともなしに眺めていた。二人は又しばらく黙っていた。
 女は男の心の奥を測りかねていた。男は言うに言われない苦労を胸に抱えているらしく思われるのに、なぜあらわに打ち明けてくれないのか。それが水臭いような、恨めしいようにも思われてならなかった。どんな事でもいい、聞けば聞いたように自分にも覚悟がある。たとい天が落ちて来ようとも地が裂けようとも、今更おどろくような意気地なしの自分ではない。それは万々《ばんばん》知っている筈の外記がなぜ卑怯に隠し立てをするのか、それが憎いほどに怨めしかった。今となって男の心が疑わしくもなった。
「ぬしは奥様でもお貰いなんすのかえ」
 途方もない不意撃ちを喰らわして探りを入れると、外記は思わず噴きだした。
「馬鹿を言え、そんな気楽な沙汰かい」
「気楽でないと言わんすなら、また新しい苦労でも殖えなんしたかえ。主《ぬし》はなぜそのように物を隠しなんす。お前、ひと間住居《まずまい》とやらにでもなりんすのかえ」と、綾衣は厚い三栖紙《みすがみ》を膝に突いて摺り寄った。
 一間住居というのは座敷牢である。武家で手にあまる道楽
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