て正直に天機を洩らすのを憚《はばか》って、今度の病気だけのうらないを報告しておいた。それでも此のおそろしい秘密を自分ひとりの胸に抱えているのは何だか不安なので、ある時そっと新造の綾鶴にささやいた。それが又いつか綾衣の耳へもはいった。
「そんなら、わたしのも見てもらっておくんなんし」
 お金は薄気味わるがって毎日ゆきしぶっているので、今度は綾衣がふだんから贔屓にしているお静《しず》という仲の町の芸妓が頼まれた。お静は田町へ行って綾衣の生まれ月日を言うと、占い者は又もひたいに皺を寄せて、この女には剣難の相《そう》があると言った。お静も真っ蒼になってふるえて帰った。綾衣にむかって何と答えてよかろうか、お静も一時はひどく困ったが、もう四十に近い女だけに彼女は考え直した。
 花魁は夜毎に変った客に逢う身である。どんな酔狂人か気まぐれ者に出逢って、いつどんな災難を受けまいものでもない。当人が平生からその用心をしていれば、なんにつけても油断がなく、まさかの時にも危うい災難を逃がれることができるというもの。これはいっそ正直に打ち明けて、当人に注意を与えておいた方が却ってその身のためであろう。こう思って
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