く安心した。
それから此の頃の屋敷の様子や、外記にかかわる親類たちの噂などを根掘り葉掘りいろいろ聞きただしたが、世間慣れている角助は如才《じょさい》ない受け答えをして、綾衣に聞かして悪いようなことはなんにも言わなかった。彼は綾衣が返事の文《ふみ》といくらかの使い賃とを貰って帰った。
ほかに子細はないというので少しは安心したものの、ぬしの病気と聞けば、また気がかりであった。綾衣はすぐに遣手《やりて》のお金《きん》を浅草の観音さまへ病気平癒の代参にやった。その帰りに田町《たまち》の占い者へも寄って来てくれと頼んだ。
雪どけのぬかるみをふんで、お金は浅草へ参詣に行った。田町には名高い占い者があって、人相も観る、墨色《すみいろ》判断もする、人の生年月日を聴いただけでもその吉凶《きっきょう》を言い当てる。お金は帰りにここへも寄って、外記の生まれ年月をいって判断を頼んだ。占い者は首をひねって、今度の病気はすぐに癒《なお》る。しかし、この人は半年のうちに大難があると脅《おど》すように言った。
迷信のつよい廓《さと》の女は身の毛がよだ[#「よだ」に傍点]って早々に帰って来た。しかし綾衣にむかっ
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