がとうござりました。
(童は蟹の糸をときて、うしろの海に放ちやる[#「放ちやる」は底本では「放ちゃる」]。)
雨月 この後もあの蟹を捕えてはならぬ。平家のたましいが乗憑《のりうつ》っているからは、どのようなおそろしい祟り[#「祟り」は底本では「崇り」]があろうも知れぬぞ。
三人 あい。あい。
(わらべ等は去る。雨月はあとを見送る。)
雨月 日暮れてあたりに人もなし、忍ぶ身には丁度幸いじゃ。海に沈みし御一門の尊霊に、よそながら御回向《ごえこう》申そうか。
(雨月は浜辺にひざまずき、数珠《じゅず》を繰りつつ、海にむかって回向す。官女玉虫、廿歳[#「廿歳」は底本では「甘歳」]、下髪《さげがみ》、被衣《かつき》をかぶりて出で、松の木かげに立ちて窺いいるうちに、雨月は回向を終りて起たんとす。)
玉虫 あ、もし……。
(雨月はたちどまりてすかし視る。)
雨月 どなたでござりまするな。
玉虫 おお、宗清殿……。わらわじゃ。玉虫じゃ。
(近寄りて被衣を取る。かくと見るより雨月は再び土にひざまずく。)
雨月 いかにも弥平兵衛宗清《やへいびょうえむねきよ》、不思議なところでお目にかかりました。
玉虫 なん
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