逢わぬぞや。
(突き放して起たんとす。玉琴は姉の袂にすがる。)
玉琴 では、姉妹《きょうだい》の縁を切って……。
玉虫 姉妹はおろか、人間同士の縁も切った。おのれは畜生……。見るも汚れじゃ。
(袂を払って奥に入る。玉琴は泣き伏す。おしおは呆れる。)
おしお やれ、やれ、飛んでもないことになりましたのう。お詫びの種にもなろうかと、那須の殿様のことをうかうか申上げたら、却って御腹立ちは募るばかり。口はわざわいの門《かど》ということを今知って、悔んでもあとの祭じゃ。玉琴さま、料簡してくださりませ。
玉琴 いえ、いえ、詫びるには及びませぬ。遅かれ速かれ知ること……。その折にはどう云おう、こう云おうと、色々の云訳をかんがえて置きながら、いざというときには口へも出ず。たった一人の姉妹の勘当受けて、こりゃ何としたものであろうか。
(玉琴泣き入るを、おしおは慰める。)
おしお 一旦はあのように御立腹なされても、根が血をわけた御姉妹、自然とお心の解けるは知れたことでござります。とは云え、あのはげしいお顔色では、今が今、すぐにはお詫びもかないますまい。ともかくも今夜だけは、わたくしの宿までお越しなされませ
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