やうにん》の分際で、歴々の御旗本衆に楯突《たてつ》かうとは、身のほど知らぬ蚊とんぼめ等。それほど喧嘩が売りたくば、殿様におねだり申すまでもなく、云値《いひね》でおれ達が買つてやるわ。
權六 幸ひ今日は主親《しゆうおや》の命日といふでも無し、殺生するにはあつらへ向きぢや。下町から蜿《のた》くつて来た上り鰻、山の手奴が引つ掴んで、片つぱしから溜池《ためいけ》の泥に埋めるからさう思へ。
四郎兵衞 そんな嚇《おど》しを怖がつて、尻尾をまいて逃げるほどなら、白柄組が巣を組んでゐる此の山の手へのぼつて来て、わざ/\喧嘩を売りやあしねえ。こつちを溜池へぶち込む前に、そつちが山王の括《くゝ》り猿、御子供衆のお土産にならねえやうに覚悟をしなせえ。
播磨 われ/\が頭《かしら》とたのむ水野殿に敵意を挟んで、とかくに無礼をはたらく幡隨院長兵衞、いつかは懲《こ》らしてくれんと存じて居つたに、その子分といふおのれ等が、わざと喧嘩を挑《いど》むからは、もはや容赦《ようしや》は相成らぬ。望みの通り青山播磨が直々《ぢき/\》に相手になつてくるゝわ。
四郎兵衞 いゝ覚悟だ。お逃げなさるな。
播磨 なにを馬鹿な。
子分四
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