もう一杯|呉《く》んねえ。
娘 はい、はい。(茶を汲んで来る。)
長吉 (飲まうとしてわざと顔をしかめる。)こりやあ熱くつて飲めねえや。
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(長吉はわざとその茶を播磨の前にぶちまける。)
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權次 やあ、こいつ無礼な奴。なんで我等のまへに茶をぶちまけた。
權六 かう見たところが粗相でない。おのれ等喧嘩を売らうとするのか。
長吉 売らうが売るめえがこつちの勝手だ。買ひたくなけりや買はねえまでだ。
仁助 一文|奴《やつこ》の出る幕ぢやあねえ、引込んでゐろ。こつちは手前達を相手にするんぢやねえや。
播磨 然らば身どもが相手と申すか。(笠を取る。)仔細《しさい》もなしに喧嘩を売る、おのれ等のやうなならずものが八百八町にはびこればこそ、公方様《くばうさま》お膝元が騒がしいのぢや。
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(この以前より放駒の四郎兵衞、町奴のこしらへにて子分二人をつれ、石段を降り来り、中途に立ちて窺《うかが》ひゐたりしが、この時ずつと前に出る。)
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