試さうとて……。
播磨 むゝ、それで大方仔細は読めた。それに就いてこの播磨が、そちを唯一時の花とながめて居るか、但しは、いつまでも見捨てぬ心か。その本心を探らうために、わざと大切の皿を打破つて、皿が大事か、そちが大事か、播磨が性根をたしかに見届けようと致したのであらう。菊、たしかにさうか。
お菊 はい。
播磨 それに相違ないか。
お菊 はい。
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(播磨は矢庭にお菊の襟髪を取つて縁にねぢ伏せる。)
[#ここで字下げ終わり]
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播磨 えゝ、おのれ、それ程までにして我が心を試さうとは、あまりと云へば憎い奴。こりやよく聞け。天下の旗本青山播磨が、恋には主家来の隔てなく、召仕へのそちと云ひかはして、日本中の花と見るはわが宿の菊一輪と、弓矢八幡、律義《りつぎ》一方の三河武士がたゞ一筋に思ひつめて、白柄組のつきあひにも吉原へは一度も足ぶみせず、丹前風呂でも女子のさかづきは手に取らず。かたき同士の町奴と三日喧嘩せぬ法もあれ、一夜でもそちの傍を離れまいと、かたい義理を守つてゐるのが、嘘や偽りでなることか、積《つも》つてみても知るゝ筈。なに
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