が不足でこの播磨を疑うたぞ。
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(お菊の襟髪をつかんで小突きまはす。お菊は倒れながらに泣く。)
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お菊 その疑ひももう晴れました。お免《ゆる》しなされてくださりませ。
播磨 いゝや、そちの疑ひは晴れようとも、うたがはれた播磨の無念は晴れぬ。小石川の伯母はおろか、親類一門がなんと云はうとも、決してほかの妻は迎へぬと、あれほど誓うたをなんと聞いた。さあ、確《しか》と申せ。なにが不足でこの播磨を疑うた。なにを証拠にこの播磨を疑うた。
お菊 おまへ様のお心に曇りのないは、不断からよく知つてゐながらも、女の浅い心からつい疑うたはわたくしが重々のあやまり、真平御免《まつぴらごめん》くださりませ。
播磨 今となつて詫びようとも、罪のないものを一旦疑うた、おのれの罪は生涯消えぬぞ。さあ、覚悟してそれへ直れ。
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(播磨はお菊を突き放して、刀をひき寄せる。下の方より庭づたひに奴《やつこ》權次走り出づ。)
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權次 もし、殿様し
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