方に去る。)
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お菊 (苛々《いら/\》して。)えゝ、なんとしたものであらう。わたしといふ者を打捨てて、ほかの奥様をお貰ひ遊ばすやうな、そんな嘘つきの殿様でないことは、不断からよく知つてゐるものの、小石川の伯母様の御媒介《おなかうど》で、飯田町の大久保様とやらから奥様をお迎へなさる、内相談があるとやら。(また考へる。)いや、それはほんの人の噂ぢや。おゝ、さうぢや。現にこのあひだも殿様にそれを云うて念を押したら、えゝ、馬鹿め、おれを疑ふにも程がある。まあ、黙つて長い目で見てをれ、とたゞ一口に叱りなされた。叱られて嬉しかつたも束《つか》の間《ま》で、又なんとやら疑ひの芽が噴いてくる……。えゝ、もうどうともなれ。
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唄※[#歌記号、1−3−28]物に狂ふか青柳も、風のまに/\もつれて解けて、糸のみだれの果しなき。
(お菊は少しく悶《じ》れたる気味にて皿を片づけてゐたりしが、また手をやすめて考へる。)
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お菊 よもやとは思ふものの、万
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