るために、こんな悪戯《いたずら》めいた事を続行したらしい。騒動があまり大きくなったので、この頃はしばらく中止しているが、あわ好くば小隊全部の髪を切ってしまうつもりかもしれない。
 藤屋のお房との関係から、半七は先ず鮎川に疑いをかけた。茶屋女などに関係すれば、金につまる。金につまれば何をするか判らない。その推測が適中して、きょうのドンタクに外出を許された彼は、この向島の小料理屋でどこかの侍と密会している。お房の兄の米吉もその間に立って、金銭取引の中継ぎをしているらしい。ここまで判れば、この一件の解決は時間の問題に過ぎないと、半七は多寡をくくってしまったのである。
 まだ残っているのは、代地と金杉の押込み一件で、髪を切られた者と、髪を切っている者と、それに何かの関係があるか無いか、その解決は幸次郎の報告を待つのほかはなかった。
 それからそれへと考えながら、半七はあき茶屋を出て吾妻橋の方角へ引っ返すと、日ざかりの暑さはいよいよ夏らしくなったので、彼は葉桜の下を択《よ》って歩いた。水戸の屋敷の大きい椎《しい》の木がもう眼の前に近づいた頃に、堤下の田圃で泥鰌《どじょう》か小鮒をすくっている子供
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