半七捕物帳
歩兵の髪切り
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)極月《ごくげつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)歩兵|屯所《とんじょ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28] 
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     一

 前回には極月《ごくげつ》十三日の訪問記をかいたが、十二月十四日についても、一つの思い出がある。江戸以来、歳《とし》の市《いち》の始まりは深川八幡で、それが十四、十五の両日であることは、わたしも子どもの時から知っていたが、一度もその実況を観たことが無いので、天気のいいのを幸いに、俄かに思い立って深川へ足を向けた。
 今と違って、明治時代の富岡門前町の往来はあまり広くない。その両側に露店が列《なら》んでいるので、車止めになりそうな混雑である。市商人《いちあきんど》は大かた境内《けいだい》に店を出しているのであるが、それでも往来にまでこぼれ出して、そこにも此処にも
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