衛門らと同村の生まれである。
これだけのことを調べた上で、半七は店さきで茂兵衛と立ち話をはじめた。
「金右衛門は別に他人《ひと》から恨みを受けるような心あたりはねえかね」
「ございません」と、茂兵衛ははっきり答えた。「八年ほど前に一度、江戸へ出て来たことがありまして、今度が二度目でございます。そんなわけで、江戸には碌々に知りびともない位でございますから、恨みを受けるなぞという事がある筈がございません」
「そこで、お前さんはどう思うね」と、半七は探るように訊いた。
「それですから、何が何だか一向に見当が付きません」と、茂兵衛は眉をよせた。
「じゃあ、その金右衛門に逢わせて貰おう」
店の次に茶の間があって、そこから縁側伝いで六畳の奥座敷へ通うようになっている。そこへ案内されて、半七は怪我人の枕もとに坐った。
金右衛門は見るからに頑丈そうな男で、傷が案外に浅かった為でもあろう、顔の色は蒼ざめているが、気は確かであった。彼も茂兵衛と同様、江戸には殆ど知りびともない位であるから、恨みをうける覚えなどは更に無いと答えた。枕もとに控えている為吉兄妹もおなじ返事であった。殊に為吉らは生まれて初めて江戸へ出たと云うのであるから、何が何やら殆ど夢中で、この不意の出来事についてはただ茫然としているばかりであった。
ここで詮議しても埓が明かないと見て、半七はいい加減に切り上げて店を出ると、表に待っていた庄太が小声で訊いた。
「なにか当たりがありましたかえ」
「いけねえ、みんなぼんやりしているばかりだ」と、半七は苦《にが》笑いしながら云った。「おめえも知っている通り、この春はここらで唐人飴屋の一件があった。あいつは飛んだお茶番で済んでしまって、本当の奴はまだ挙がらねえ。今度の一件も何かそれに係り合いがあるのじゃあねえかと思う。ここらにゃあ安御家人がいくらも巣を組んでいるから、その次男三男の厄介者なんぞが悪い事をするのじゃあねえかな」
「そうかも知れませんね」と、庄太もうなずいた。「そうすると、その娘を引っさらって宿場《しゅくば》へでも売るのでしょうか」
「まあ、そんなことだろうな」
二人は話しながら六道の辻へ引っ返して来ると、三人連れの男に出逢った。かれらは庄太にむかって、ここらに下総屋という米屋はないかと訊いた。その風俗をみて、庄太はすぐに覚った。
「おまえさん達は馬喰町の下総屋
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