では、心中した娼婦の死骸は裸にして葬ると云い伝えていますが、そのほかには死骸を裸にして葬るという話を聞きません。どう考えても、この死骸は因縁つきに相違ないのです。
こう申せば、いずれこの事件に、蟹のお角が係り合っていると云うことは大抵お察しが付くでしょうが、どういうふうに係り合っているかと云うのがお話です。まあ、お聴きください」
二
それから二日目の七月十三日の夕方である。神田の半七の家では盂蘭盆の迎い火を焚いて、半七とお仙の夫婦が門口《かどぐち》へ出て拝んでいると、旅すがたで草履をはいた一人の男が、その迎い火の煙りのまえに立った。
「親分、御無沙汰を致しました」
「あら、三ちゃんかえ」と、お仙が先ず声をかけた。
「ええ、三五郎ですよ。お迎い火を焚いているところへ、飛んだお精霊《しょうりょう》さまが来ましたよ」と、彼は笑いながら会釈《えしゃく》した。
彼は高輪の弥平という岡っ引の子分の三五郎で、江戸から出役《しゅつやく》の与力に付いて、二、三年前から横浜へ行っているのであった。それと見て、半七も笑った。
「やあ、三五郎か。久しぶりだ。まあ、はいれ」
内へ通されて、
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