るのか」
「そんな疑いがある様子で、先生とお角とは仲がいいように見えながら、また時々には喧嘩なぞをする事もありました。お角は六月の十日《とおか》過ぎに家を出て、二十日《はつか》頃まで姿を見せませんでしたが、又ふらりと帰って来て、別に変ったこともなしに暮らしていましたが、その晦日《みそか》の朝です。先生とお角は二人連れで出かけましたから、多分ハリソンの家へ行ったのだろうと思っていますと、やはり夕がたに帰って来ましたが、その時にはわたくしも驚きました」
「何をおどろいたのだ」
「先生もすこし蒼い顔をしていましたが、お角は真っ蒼な顔をして、眼は血走って、髪をふり乱して、まるで、絵にかいた鬼女《きじょ》のような顔をして、黙ってはいって来たかと思うと、だしぬけに台所へかけ込んで、出刃庖丁を持ち出して来て、先生に切ってかかりました。先生は庭から表へ飛び出して、畑の方へ逃げて行くと、お角もつづいて追っかけて行きました。何がなんだか判りませんが、わたくしも驚いて駈け出しました。御承知の通り、近所に人家もなく、もう日暮れがたで往来もありません。わたくしは一生懸命に追い着いて、うしろからお角を抱きとめると
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