でも、横浜となれば旅だ。八丁堀の旦那に相談して、そのお許しを受けにゃあならねえ。あしたの午過ぎに、もう一度来てくれ」
「ようがす、久しぶりで江戸へ帰って来たついでに、四、五軒顔出しをする所がありますから、あした又出直してまいります」
 三五郎はなにか横浜のみやげを置いて帰った。それと入れちがいに多吉が来た。
「たった今、横浜から三五郎が来たよ」
「そりゃあ惜しいことをした」と、多吉は舌打ちした。「あいつ此の頃は景気がいいと云うから、見つけ次第に貸しを取り返してやろうと思っていたのだが……」
「いくらの貸しだ」
「三歩さ」
「三歩の貸しを執念ぶかく付け狙うほどの事もあるめえ」と、半七は笑った。「実は、あいつも商売用で出て来て、おれに加勢を頼むのだ。都合によったら旅へ出なけりゃあならねえ」
「横浜へ伸《の》すのですか」
 半七からひと通りの話を聞かされて、多吉は仔細らしくうなずいた。
「そいつは何とか早く埓を明けてやらなけりゃあいけますめえ。日本の役人ペケありますなんて、毛唐人どもに笑われちゃあ癪ですからねえ」
「大きく云やあ、そんなものだ。あした八丁堀へ行って相談したら、旦那がたも多分承
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