、ほかの犬を連れ込んだのじゃあねえかと……。それにしても判らねえのは、亭主を刃物で殺すくれえなら、女房も同じ刃物で殺してしまいそうなものだのに、なぜ犬なんぞを使って啖い殺させたのか、それとも自然にそうなったのか。そこらの謎が解けねえので、どうも確かなところを掴むことが出来ませんよ」
「夫婦が殺された時に、なにか紛失物はねえのか」と、半七はまた訊いた。
「知り合いの異人たちが立ち会って調べたそうですが、これぞという紛失物もないようだと云うことです」
「亭主を殺した刃物はなんだ」
「多分、大きいナイフ……西洋の小刀だろうと云うのですが、現場にはそんなものは残っていなかったそうです」
「ハリソンはいつから渡って来たのだ」
「去年の二月です。店の方にゃあ二人の異人と三人の日本人を使っています。日本人は徳助、大助、義兵衛といって、みんな若けえ奴らです。商売は異人館ですから、やっぱり糸と茶を主《おも》に仕入れているようですが、異人仲間の噂じゃあ相当に金を持っているらしいと云うことです。そこで、親分、いよいよ踏み出してくれますかえ」
「行って見てもいいが、おれの一存で返事は出来ねえ。たとい七里の道中
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