「女房の方は獣に啖い殺されたらしいと云ったな」と、半七は少しかんがえていた。「いくら異人だって虎や獅子を日本まで連れて来ていやあしめえ、犬だろうな」
「洋犬《カメ》ですよ」と、三五郎はうなずいた。「ハリソンの家にゃあ大きい赤い洋犬を飼っていたそうですから、多分その洋犬の仕業《しわざ》だろうと云うのですが……」
「そうすると、亭主は人に殺されて、女房は犬に殺されたと云うことになるのだが、その犬はどうした」
「どこへ行ったか、その晩から犬のゆくえは知れねえそうです。そこで又、こんなことを云う者もあるのです。なにかの仔細があって、女房が亭主を殺して庭さきへ逃げ出すと、飼犬が主人の仇とばかりに飛びかかってその女房を啖い殺したのかも知れないと……。成程それもひと理窟あるようですが、それならばその洋犬がそこらにうろついていそうなものだが、どこへ行ったか姿を見せないのはおかしい。わっしの鑑定じゃあ、女房を啖い殺したのはハリソンの家《うち》の洋犬じゃあなく、恐らくほかの犬だろうと思うのです。ハリソンの飼い犬は邪魔になるので、仕事にかかる前に毒でも喰わせるか、ぶち殺すか、なんとかして押し片付けてしまって
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