組の人達から詳しい話を聞いて来たので、まず大抵の見当は付いていた。半七は歩きながら云った。
「馬どろぼうとは別物だろうが、異人の紙入れを取ったとか取らねえとかいう女、それもついでに調べて置く方がよさそうだな」
「そうですね」と、幸次郎もうなずいた。「いずれ女の巾着切《きんちゃっき》りでしょう。異人の紙入れを掏り取って、手早く相棒に渡してしまったに相違ありませんよ。江戸の巾着切りは手妻《てづま》があざやかだから、薄のろい毛唐人なんぞに判るものですか」
二人はそこらの休み茶屋へはいって、茶を飲みながらおとといの噂を訊くと、ここらの人達は皆よく知っていた。茶屋の女の話によると、その女は年ごろ二十八九の小粋な風俗で、ほかに連れも無いらしかった。彼女は騒動にまぎれて何処へか立ち去ったので、何者であるかを知る者はなかった。
女の人相などを詳しく訊きただして、二人はそこを出ると、幸次郎はすぐにささやいた。
「今の話で大抵わかりました。その女は蟹《かに》のお角《かく》と云って、両腕に蟹を一匹ずつ彫っている奴ですよ」
「そいつの巣はどこだ」
「どこと云って、巣を決めちゃあいねえようですが、お角と判れ
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