しているので、東禅寺の方からむずかしい掛け合いを持ち込んで来ました。まさかに償金を出せとも云いませんが、その乱暴者を処分して、今後を戒めるようにしてくれと云うのです。乱暴者の処分と云ったところで、大勢の弥次馬ですから誰が何をしたのか判る筈はありません。ただ、捨て置かれないのは、どさくさまぎれの馬泥坊です。異人の馬ばかりでなく、日本の侍の馬まで盗んで行ったんですから、こいつは何とかして探し出さなければなりません。
 八丁堀同心丹沢五郎治という人の屋敷へ呼ばれて、半七御苦労だが働いてくれという命令です。まあ、仕方がない。かしこまりましたと請け合って帰りました。かんがえて見ると、世の中にはいろいろの事件が絶えないものですね」

     二

 半七は主《おも》な子分らをあつめて評議の末に、皆それぞれの役割を決めた。九月二十六日の朝、自分は子分の幸次郎を連れて、ともかくも団子坂へ出てゆくと、菊人形は相変らず繁昌していた。別手組の一人が一緒に来てくれると、万事の調べに都合がいいと思ったのであるが、東禅寺警固の役目をおろそかには出来ないというので、現場へ同道することを断わられた。
 しかし、別手
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