半七捕物帳
菊人形の昔
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)旧《ふる》い
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二匹|牽《ひ》き出しそうなものだが
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)先ずほっ[#「ほっ」に傍点]としたんですが
−−
一
「幽霊の観世物」の話が終ると、半七老人は更にこんな話を始めた。
「観世物ではまだこんなお話があります。こんにちでも繁昌している団子坂の菊人形、あれは江戸でも旧《ふる》いものじゃあありません。いったい江戸の菊細工は――などと、あなた方の前で物識りぶるわけではありませんが、文化九年の秋、巣鴨の染井の植木屋で菊人形を作り出したのが始まりで、それが大当りを取ったので、それを真似《まね》て方々で菊細工が出来ました。明治以後は殆ど団子坂の一手専売のようになって、菊細工といえば団子坂に決められてしまいましたが、団子坂の植木屋で菊細工を始めたのは、染井よりも四十余年後の安政三年だと覚えています。あの坂の名は汐見坂《しおみざか》というのだそうですが、坂の中途に団子屋があるので、い
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