の上に猿のような怪物が歯をむき出しながら、爪の長い手をのばしていた。
「さあ、鬼でも蛇《じゃ》でも来い。死んでも後へ引っ返すような長さんじゃあねえぞ」
彼はもう捨て身になって進んでゆくと、眼のさきに柳の立ち木があって、その下には流れ灌頂《かんじょう》がぼんやりと見えた。このあたりは取り分けて薄暗い。その暗いなかに女の幽霊があらわれた。幽霊は髪をふり乱して、胸には赤児を抱いていた。どんな仕掛けがあるのか知らないが、幽霊は片手をあげて長助を招いた。
「な、なんだ。てめえ達に呼ばれるような用はねえのだ」と、長助は少しく声をふるわせながら又呶鳴った。
路は狭い、幽霊は路のまん中に出しゃばっている。忌《いや》でもこの幽霊を押し退けて行かなければならないので、さすがの長助もすこし困ったが、それでも向う見ずにつかつかと突き進むと、幽霊はそれを避けるようにふわりと動いた。ざまを見ろと、彼は勝ち誇って進んでゆくと、その足はまた何物にかつまずいた。それは人であった。女であった。
その女につまずいて、長助は思わず小膝を突くと、女は低い声で何か云ったらしかった。そうして突然に長助にむしり付いた。驚いて振
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