半七捕物帳
幽霊の観世物
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)梅雨《つゆ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日本橋材木|町《ちょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うようよ[#「うようよ」に傍点]と這っている
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     一

 七月七日、梅雨《つゆ》あがりの暑い宵であったと記憶している。そのころ私は銀座の新聞社に勤めていたので、社から帰る途中、銀座の地蔵の縁日をひやかして歩いた。電車のまだ開通しない時代であるから、尾張町の横町から三十間堀の河岸《かし》へかけて、いろいろの露店がならんでいた。河岸の方には観世物《みせもの》小屋と植木屋が多かった。
 観世物は剣舞、大蛇《だいじゃ》、ろくろ首のたぐいである。私はおびただしい人出のなかを揉まれながら、今や河岸通りの観世物小屋の前へ出て、ろくろ首の娘の看板をうっとりと眺めていると、黙って私の肩をたたく人がある、振り返ると、半七老人がにやにや笑いながら立っていた。洋服を着た若い者が、口をあいてろくろ首の看板をながめているなどは、余りいい図ではないに相
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