二筋道の角《かど》に出た。
最初からその覚悟であるから、長助は猶予せずに左の路を取って進むと、さなきだに薄暗い路はいよいよ暗くなった。どこかで燃えている鬼火の光りをたよりに、長助は二、三間ほども辿ってゆくと、不意に其のたもとを引くものがある。見ると、路ばたに小さい蒲鉾《かまぼこ》小屋のような物があって、その筵《むしろ》のあいだから細い血だらけの手が出たのである。ぜんまい仕掛けか何かであろうと思いながら、長助は取られた袂を振り払ってゆく途端に、なにか人のような物を踏んだ。透かして見ると、路のまん中に姙《はら》み女が横たわっているのであった。女は半裸体の白い肌を見せながら、仰向けに倒れていて、その首や腹には大きい蛇がまき付いていた。
「へん、こんなことに驚くものか。江戸っ子だぞ」と、長助は付け元気で呶鳴った。
この時、なにか其の顔をひやりと撫《な》でたものがある。はっ[#「はっ」に傍点]と思って見あげると、一匹の大きい蝙蝠《こうもり》が羽《はね》をひろげて宙にぶらさがっていた。又行くと、今度はその頭の髷節《まげぶし》をつかんだような物がある。ええ、何をしやあがると見かえると、立ち木の枝
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