みんな同じような考えで、これは早く三河|町《ちょう》の親分さんにお願い申した方がよかろうと申しますので、こんな夜更《よふ》けにお邪魔に出まして相済みません」
「そこで、わたしの心得のために、訊《き》くだけのことを正直に話してください」と、半七は云った。
「お店には大《おお》旦那夫婦がありましたね」
「はい、大主人は半右衛門、五十三歳。おかみさんはおとせ、五十歳でございます」
「若主人夫婦は……」
「若主人は金兵衛、三十歳。若いおかみさんはお雛、二十六歳。若いおかみさんの里は、岩井町の田原という材木屋でございます」
「お乳母《んば》さんは」
「お福と申しまして、若いおかみさんと同い年でございます。お福の宿は根岸の魚八という魚屋《さかなや》で、おやじは代々の八兵衛、おふくろはお政、ほかに佐吉という弟がございます」と、要助は一々明瞭に答えた。
「乳母に出るのだから、一旦は亭主を持ったのだろうが、その亭主とは死に別れですかえ」
「なんでも浅草の方へ縁付きましたのですが、その亭主が道楽者で……。生まれた子が死んだのを幸いに、縁切りということに致しまして、乳母奉公に出たのだそうでございますが、まこ
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