いましたが、嘘か本当か請け合われません。尤も半年か一年の後にふらりと帰って来て、今まで山の中に暮らしていたなどと云う者もある。そんなわけですから、子供のすがたが見えなくなれば、第一は迷児、次は人攫いか神隠しかと云うことになるのが普通で、玉太郎も迷児を通り越して人攫いか神隠しかという説が多くなりました。
神隠しはどうにもならないが、人攫いならば早く手を廻して、そのありかを探し出す工夫が無いでもあるまいというので、その夜ふけに番頭要助がわたくしの家へたずねて来ました。さてこれからがお話です」
二
小座敷の行燈の下で、客と主人が向かい合った。もう寝ようとしたところを叩き起こされて、春の夜寒《よさむ》が半七の襟にしみた。
「あの玉ちゃんという児《こ》は七つになりますかえ。わたしも店の前に遊んでいるのを見たことがある。色白の綺麗な坊やでしたね」
「はい、主人の子を褒めるのもいかがですが、仰しゃる通り、色白の可愛らしい子供でございまして……」と、要助は答えた。「それだけに親たちも心配いたしまして、もしや拐引《かどわかし》にでも逢ったのじゃあないかと申して居ります。御近所の人たちも
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