が明神下の店へ引っ返してみると、家へも帰っていないという。店の方でも騒ぎ出して、若い者二人と小僧ひとりがすぐに駈け付けたが、玉太郎の姿はどうしても見えない。番頭の要助もあとから駈け出して、それからそれへと心あたりを訊《き》いて歩いたが、誰も知らないと云う。春といっても此の頃の日はまだ短いので、そんな騒ぎのうちに日が暮れてしまいました。
それほど遠くもない所で、迷児になってしまうと云うのは少しおかしい。子供といってももう七つにもなっているのだから、誰かに道を訊《き》いても帰られそうなものだと云う者もある。誰かが見つけて連れて来てくれそうなものだと云う者もある。そうなると、もしや人攫《ひとさら》いにでも拐引《かどわか》されたのじゃあないかと云う疑いも起こる。あるいは神隠しかも知れないと云う者もあります。
今でも時々そんな噂を聞きますが、昔は人攫いだの、神隠しだのということがしばしば云い伝えられました。人攫いは小綺麗な女の児を攫って行くんですが、男の児も攫われることがある。これは遠方へ連れて行って、幾らかに売り飛ばすのですが、神隠しの方はなぜだか判らない。普通は天狗に攫われるのだと云って
前へ
次へ
全48ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング