ま屋という菓子屋の女房と娘、あずま屋の親類の娘、あわせて六人連れで、近所のことですから午過ぎから出かけると、前にも云う通りの評判で、湯島の近辺は押し返されないような混雑、そのなかを潜《くぐ》って社前に参詣して、例の作り物などをひと通り見物している間に、息子の玉太郎のすがたが見えなくなったので、みんなも騒ぎ出しました。
お雛は十八の年に菊園の嫁に来て、二十歳《はたち》の暮に玉太郎を生みましたが、乳の出がどうもよくないので、お福という乳母を置いて育てて来て、玉太郎はことし七つになっていました。ひとり息子ですから、家《うち》じゅうで可愛がっている。乳母のお福も気立てのいい女で、わが子のように玉太郎を可愛がっている。その玉太郎の姿を見失ったので、大騒ぎになったのも無理はありません。
こういう混雑の場所で、子供が親にはぐれて迷児《まいご》になるのは珍らしくないことですが、親たちの身になれば騒ぐのも当然で、お雛もお福も気ちがいのようになって騒ぐ。連れのあずま屋の女たちも黙って見ちゃあいられないから、これも一緒になって探し廻る。遠くもないところであるから、自分ひとりで帰ったのかも知れないと、お福
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