とに実体《じってい》な忠義者で、主人の子どもを大切に致してくれますので、内外《うちと》の評判も宜しゅうございます」
それから店の若い者、小僧、奥の女中たちまで、一々身もと調べをした上で、半七はかんがえながら云った。「なにしろ御心配ですね。これがお店にかかり合いのある者の仕業《しわざ》なら、案外に手っ取り早く埓《らち》が明くかも知れませんが、通りがかりの出来ごころで、ああ綺麗な児だと思って引っ攫って行かれたのじゃあ、その詮議がちっと面倒になる。しかしまあ折角のお頼みですから、なんとか出来るだけの事をしてみましょう。御主人にもよろしく仰しゃって下さい」
「なにぶん宜しく願います」と、要助は繰り返して頼んで帰った。
それを見送って、寄り付きの二畳へ出て来た半七は、誰か表に忍んでいるような気配《けはい》を覚った。要助が格子を閉めて出たあとから、半七もつづいて草履を突っかけて沓脱《くつぬぎ》へ降りて、そっと格子をあけて表を窺うと、今夜はあいにく闇であったが、何者かが足音をぬすんで立ち去るらしかった。
「おい、そこにいるのは誰だ」
声をかければ逃げるのは判っていたが、無言で他人《ひと》を取り
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