女は顔の色をちょっと変えましたが、そんな者は居りませんと云う。わたくしは畳みかけて『なに、居ないことがあるものか、誰にやるつもりでカンカラ太鼓を買ったのだ』と一本参ると、さすがは女で、もう行き詰まってぐうの音《ね》も出ません、こっちは透かさず高飛車に出て『さあ、さあ、案内しろ』と、お京を追い立てて二階へあがると、果たして玉太郎が見付かりました」
「では、そのお京という女も共謀なんですか」
「まあ、共謀といえば共謀です。お京と次郎吉はよし原にいた時からの馴染で、槌屋の隠居の世話になっていながらも、内証で次郎吉を引っ張り込んでいたんです。次郎吉の家は裏長屋で、近所の口がうるさいので、お京の方からは滅多にたずねて行かない、いつも自分の方へ呼んでいる。次郎吉はだらしのない怠け者ですが、人間が小粋に出来ているので、まあ色男になっていたわけです。勿論、白雲堂とも前から識っていました。
白雲堂も一旦は玉太郎を自分の家へ引き取ったが、何分にも家は狭い、隣りは近い。自分はひとり者で子供の世話にも困る。おまけに菊園では岡っ引に探索を頼んだという話を聞いて、なおさら自分の家に置くのは不安だと思って、次郎吉
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