とも出来ず、そのままぼんやりと連れられて来ると、幸斎はその手足を縛って、口へは手拭を捻じ込んで、二階の押入れのなかへ抛《ほう》り込んで置いて、下から梯子を引いてしまった。五十を越していながら、ひどい奴です。
 幸斎はそれから茶の間に坐り込んで、ふぐ鍋で一杯飲み始めました。その河豚は魚八から貰って来たもので、これから一杯飲もうとする処へお福がたずねて来たので、その儘になっていたんです。これで幸斎が無事ならば、お福は又どんな目に逢ったか知れなかったんですが、幸斎は一旦酔って寝てしまったらしい。それが夜なかに眼を醒ますと、いわゆる鉄砲の中毒、ふぐの祟りで苦しみ死にをしたのは、天罰|贖面《てきめん》とでも云うのでしょう」
「玉太郎はどこに隠してあったんです」
「白雲堂が死んでしまったので、手がかりがありません。山谷の勝次郎は、白雲堂と知り合いではあるが、この一件に就いてはなんにも知らないと云う。そうなると、次郎吉を調べるのほかは無いので、庄太に案内させて聖天下《しょうでんした》へ出かけて行く途中、二十七八の垢抜けのした女に逢いました。丁度にそこへ河豚太鼓を売る商人《あきんど》が通りかかると、女
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