に持って行った……。よくよく坊ちゃんが可愛かったと見えます。
 さてそれからが災難で、お福が白雲堂へたずねて行くと、実はもう玉太郎はほかへ預けたというんです。それじゃあ其処へ連れて行ってくれと云うと、一緒に出ては近所の眼に付くからと、ひと足さきへお福を出して置いて、自分もあとから出て来た。そうして、連れ込んだ先は山谷《さんや》の勝次郎という奴の家です。勝次郎はよし原の妓夫《ぎゅう》で、夜は家にいない。六十幾つになる半聾のおふくろ一人が留守番をしている。その二階へ引っ張りあげて、白雲堂はそろそろ嚇し文句をならべ始めました。
 誘拐は重罪であるが、主人の子供をかどわかすのは、その罪がいよいよ重い。おまえは勿論だが、ぐる[#「ぐる」に傍点]になって悪事を働いた親達も弟も死罪を免かれないから覚悟しろと、まあこう云って嚇し文句をならべ立てて、お福の持っている巾着銭《きんちゃくぜに》をまき上げたばかりか、無理無体にお福を手籠めにしてしまったんです。それから又、お福を引き摺るようにして馬道の家へ帰ったんですが、お福は驚いたのか恐ろしいのか、もう半分は死んだようになって、逃げることも出来ず、声を出すこ
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