々に立ち去ったのであろう。家主に一応ことわった上で、半七は庄太を先に立てて二階へあがろうとすると、そこには梯子《はしご》がなかった。ここらの小さい家では梯子段を取り付けてあるのではなく、普通の梯子をかけて昇り降りをするのであるが、その梯子をはずしてあるので、上と下との通路が絶えている。二人はそこらを見まわしたが、どこにも梯子らしい物は見付からなかった。
「おかしいな」と、半七は訊いた。「なんで梯子を引いたのだろう」
「変ですね。なんとかして登りましょう」
 庄太は二階の下にある押入れの棚を足がかりにして、柱を伝《つた》って登って行った。半七もつづいて登ってゆくと、二階は狭い三畳ひと間で、殆ど物置も同様であったが、それでも唐紙《からかみ》のぼろぼろに破れた一間の押入れが付いていた。隠れ家はこの押入れのほかに無い。半七に眼配《めくば》せをされて、庄太はその唐紙を明けようとすると、建て付けが悪いので軋《きし》んでいる。力任せにこじ明けると、唐紙は溝をはずれてばたりと倒れた。それと同時に、二人は口のうちであっ[#「あっ」に傍点]と叫んだ。
 押入れの上の棚には、古びた湿《しめ》っぽい寝道具が押
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