し込んであったが、棚の下には一人の女がころげていた。女は二十五六の年増で、引窓の綱らしい古い麻縄で手足を厳重に縛《くく》られて、口には古手拭を固く捻じ込まれていた。帯は解かれて、そのそばに引ん丸められ、肌もあらわに横たわっている姿は、死んでいるか生きているか判らなかった。彼女は丸髷を掻きむしったように振り乱して、真っ蒼な顔の両眼を瞑じていた。
 半七はこの鼻に手を当ててみた。
「息はある。早く解いてやれ」
 庄太は手足の縄を解き、口の手拭をはずしてやったが、女はやはり半死半生で身動きもしなかった。
 二階から半七に声をかけられて、下にあつまっている人達も俄かに騒ぎ立った。なにしろ梯子がなくては困ると、あわてて家内を探しまわると、台所の隅に立てかけてあるのが見付け出された。
 梯子をかけて、女をかかえおろして、ひと先ずそれを自身番へ送り込ませた後に、半七は更に二階の押入れをあらためると、丸められた帯のそばに小さい風呂敷包みがある。あけて見ると、菓子の袋と小さい河豚太鼓があらわれた。
 二階の庇《ひさし》では猫の啼く声が又きこえた。

「お話も先ずここらでしょうかね」と、半七老人はひと息つ
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