どんな女だ」
「お政という四十五六の女で、見たところは悪気のなさそうな人間です。親父も伜も近所の評判は悪くないようです」
 そんなことを話しながら、二人は流れに沿うて小半町ほども歩いて行くと、その流れを前にして三、四軒の小あきんど店がならんでいた。その二軒目が魚八で、さびれながらも相当に広い店さきには竹の簀子《すのこ》のようなものをならべて、河豚の皮が寒そうにさらしてあった。店には誰もいないので、弥助は奥をのぞきながら声をかけた。
「もし、誰かいねえかね」
「はい、はい」
 よごれた鯉口《こいぐち》を着た四十五六の女が奥から出て来たので、半七はずっとはいって直ぐに話しかけた。
「お前さんはここのおかみさんですね。わたしは明神下の菊園へ出入りの者で、番頭さんから頼まれて来たのだが、けさも店の方から使が来たでしょう」
「はい」と、女房は不安らしく答えた。
「お福さんはまったくここへ来なかったのかえ」と、半七は訊いた。「お前さんも知っているだろうが、菊園の店にもいろいろの取り込みがある。その最中にお乳母さんがまた見えなくなっちゃあ実に困る。それで、わたし達も方々を探しているのだが、お前さんの
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