も断わらずに、年造はそこを立ち去ってしまいました。
こんにちならば、それで済むわけは無いんですが、前にもいう通りの混雑ですから、誰も構わない。幾日かの後に骨揚《こつあ》げに行って、年造の灰を拾って来たんですが、勿論それは人違いで、誰の骨を拾ったのか判りません。大コロリの時には、こんな間違いが幾らでもありました」
「それで年造は生き返ったんですね」
「一旦コロリで死にながら、また生き返りました。不思議といえば不思議です。或いは真症のコロリでは無かったのかも知れません。年造は焼き場を立ち退いて、それから何処にどうしていたのか、死人に口無しでよく判りませんが、なにしろ骨揚げが済んだ後で、或る晩ふらりと帰って来ました。そうして、隣りの大吉の家へ顔を出すと、大吉も一旦は驚いたが、生き返ったわけを聞いて先ず安心した。しかし安心できないのは、湯島の人殺しが露顕して、善八が召し捕りに来たことです。死んでしまえばそれっきりだが、生きて帰ると剣呑《けんのん》だから、大吉は年造に注意して、ひとまず万養寺の親父のところへ忍ばせました。
相長屋の甚蔵の女房が幽霊を見たというのは其の時のことです。幽霊でないと
前へ
次へ
全51ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング