半七捕物帳
かむろ蛇
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)かむろ蛇《へび》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)水道|端《ばた》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)はっ[#「はっ」に傍点]とした。
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  一

 ある年の夏、わたしが房州の旅から帰って、形《かた》ばかりの土産物《みやげもの》をたずさえて半七老人を訪問すると、若いときから避暑旅行などをしたことの無いという老人は、喜んで海水浴場の話などを聴いた。
 そのうちに、わたしが鋸山《のこぎりやま》へ登って、おびただしい蛇に出逢った話をすると、半七は顔をしかめながら笑った。
「わたしの識っている人で、鋸山の羅漢《らかん》さまへお参りに行ったのもありましたが、蛇の話は聴きませんでした。別にどうするということも無いでしょうが、それでも気味がよくありませんね。蛇と云えば、いつぞやお化け師匠のお話をしたことがあるでしょう。師匠を絞め殺して、その頸《くび》に蛇をまき付けて置いた一件です。あれとは又違って、わたくしの方に蛇のお話がありますが、蛇にはもう懲《こ》
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