吉ですよ」
 相手も不意の出合いに慌てたらしく、身をひるがえして逃げようとするのを、善八はすぐに追いかけると、彼は持っている鍬《くわ》をふり上げて、真向《まっこう》へ撃ち込んで来た。善八はあやうく身をかわすと、芒の中から又一人、鋤《すき》を持って撃って来る者があった。
「幾人もいるぞ、気をつけろ」
 半七も善八に注意しながら、鋤を持つ男に飛びかかった。あとの敵の方が手剛《てごわ》いと見たからである。何分にも芒が深いので、それが眼口《めくち》を打ち、手足に絡んで、思うように働くことが出来ない。善八も同様で、どうにかこうにか大吉の腕をつかんだが、芒の葉に妨げられて眼を明いていることも出来なかった。その不便は敵も同様であったが、この場合には弱い者の方に都合がよい。芒の邪魔を利用して、大吉らは必死に抵抗した。
 四、五匹の野良犬も駈け寄った。かれらは半七らの味方をするように、大吉らを取り巻いて、吠え付き、飛び付いた。鋤を持つ男は半七を突き放して、一間ほども逃げ延びたかと思うと、芒の根につまずいて倒れた。半七は折り重なって組み伏せた。
 大吉は案外に激しく抵抗したが、これもやがて善八の膝の下に倒
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